自白を促す弁護士

罪人なら素直に罪を認めたほうがよいのです。

さきほど解説したように自ら進んで自白したほうが罰が軽くなったり留置される期間が短くなるので、本当に罪を犯しているのなら正直に話をして反省すべきだと説いてくれるのが刑事事件に強い弁護士さんです。 そして容疑者がそれに従って行動したのなら、「この方は凄く反省しているのでなにとぞ寛大な処置を」と訴えかけるのも弁護士の仕事です。
そもそも刑事事件では容疑者が白か黒かをはっきりさせるようなケースは稀で、充分な証拠が残された状況で話は進行していきます。 ドラマなんかでは窮地に追い込まれた容疑者が凄腕の弁護士のおかげで無罪を勝ち取るストーリーをたまにみせつけてくれますが、現実的ではないお話です。 実際にはそうではなく、「本人も反省しておりますし社会的制裁も充分受けているので」と訴えかけることがほとんどなのです。 そのために必要なのが本人が罪を認めること、反省の態度を見せること、被害者にきちんと謝罪の言葉を伝えていて示談が成立していること、などです。
容疑者が反省している、もう二度としませんと誓っていれば裁判官だって厳しい刑を科すことはやめてくれるかもしれませんし、被害者も謝罪を受け入れて示談を済ませているのなら、被害者自身もその容疑者に対してそんなに重い刑を望んではいないことになります。 こうした容疑者の自白、反省、謝罪、示談という事実を積み重ねていくことで情状弁護をするのが、刑事事件での弁護士の大きな仕事になるのです。 映画のようにやったかやってないかを争う裁判はほんのごく一部で、やってしまったからスタートするのが大部分なことを知っておきましょう。 犯してしまった罪に対してどう償うのか、それを訴えるのがメインなのです。
けっこうたくさんの証拠もあり容疑者の犯行で間違いないと思われる事件で頑なに黙秘したり否認していると、裁判官の心象はすこぶる悪くなってしまいます。 黙っていれば逃げられる、そう甘く考えている罪人もおりますが、有罪となった場合情状酌量の余地は無しとされてしまうので決して得策ではありません。 「それでも無罪判決を手に入れてくれるのが優秀な弁護士だろう」と言う人もいますが、証拠の揃っている容疑者を救ってくれるような真似はできません。 それよりも判決をなるべく軽くするために動いてくれるのが刑事事件に強い弁護士、有能な弁護士なのです。
「このまま否認していると留置期間も刑期も長くなってしまうよ、家族も心配しているしペットの老犬もさみしがっているだろう。これだけの証拠があげられているから君が無罪になる可能性はほぼ0%、私にはどうすることもできないね。だけどもし君が素直になって心を開いて自白してくれたら、反省して被害者にお詫びをするつもりになってくれるのなら力を貸すことができるんだ。反省が深いほど、謝罪が大きいほど君が受けることになる刑も軽くなるだろう」と持っていくのです。
そしてそれを武器に情状弁護をするのですが、映画に出てくる弁護士の姿とはちょっと違うのでイメージしづらいかもしれません。 反省もしている、被害者と示談も成立している、社会的制裁も受けている、だから執行猶予にしてもらえないか、とお願いする情状弁護はあまりピンとこないかもしれませんが、刑事事件の多くはこんな流れになるのです。 有能な弁護士イコール無罪にしてくれるという固定観念は捨てて、無罪ではなく情状酌量を確実にゲットしてくれそうな弁護士さんの方が依頼者にとっても最良であるケースがとっても多いのです。
素直に罪を認めたほうが家にも早く帰れますし、冷蔵庫の中に生物が多く入っているのならいつまでも留置所にいるわけにはいきません。 冷蔵庫の中の牛乳が腐ってしまう前に事件を終わらせる、それができるのが刑事事件に滅法強いとされる弁護士の条件になるでしょう。